太平洋戦争の際に日本軍の秘密兵器として活躍した「零式戦闘機」こと通称“ゼロ戦”は、当時の日本の科学の粋(正確には三菱重工業の技術の粋)を極めた戦闘用の兵器で、数々の輝かしい実績を残したのでした。
その実績を裏付けた技術のひとつが「機体に使用された素材」にあります。

日本名“A7075(アメリカではAA7075と呼ばれています)”は「超々ジュラルミン」と呼ばれる素材で、強度を必要とする削り出しのレーシングパーツ等によく使用される素材です。
そのA7075材はもともと航空機用に開発された素材なのです。そのルーツは日本にあり、世界で一番早く「ESD」と呼ばれる後の7075材と同等質の合金をあの“ゼロ戦”の主翼に使用したのが始まりだそうです。
欧米戦闘機を上回る運動性能(パワーではありませんよ)を目指して開発され、当時の新型戦闘機の零式に初採用されたのです。

このように明確な目的の元で素材を選んで使用することにより、より大きな成果が期待できるわけなんです。
これは私たちの日常生活においても同じで、ただ単に「高価なもの」や「品質の確かなもの」だけが必ずしも適切な選択肢とは言えないのです。
目的や使用状況にあった素材や品質を選ぶことにより、もっと別な何かが見えてくるかも知れませんね。
index  素材の超能力!? それともマジック?!/スプリング
 鋳鉄の隠れた魅力と優れた性能
 ブレーキパッドの要/摩擦材
 金属の代わりをする樹脂
 航空宇宙産業の生まれの超素材チタン
 丈夫で軽いクロモリ鋼の正体とは?
 錆びないスーパー鋼?!ステンレス
 アルミニウムは軽いだけがとりえじゃない!!
素材の超能力!? それともマジック?!/スプリング
スプリングとは物質の持つ弾性を利用して振動や衝撃をやわらげたり、エネルギーを蓄えたりするのに幅広く利用されているものです。クルマにはいろいろな部分で使用されていますが、ちょっとそれを考察してみましょう。

物質は力を加えると変形しますが、変形しても元に戻る範囲を『弾性域』といい、さらにこの弾性域を超えて変形して元に戻らなくなってしまう範囲を『塑性域』といいます。
スプリングはこの“弾性域の範囲内”で使用します。

スプリングにはさまざまな形状・材質があります。
形状としては、線をコイル状に巻いた「コイルスプリング」、板状の「板バネ」、薄い板を巻いた「ゼンマイ」、1本の棒をねじって使う「トーションバー」などがあります。
材質としては、金属はもちろん、樹脂、ゴム、容器の中に気体(空気やガス)を封入したものなどがあります。

スプリングには3つの特性があり、次のとおりです。

●第1の特性は、変形し復元することです。
たとえば「コイルスプリング」を伸ばしたり縮めたりしても、加えている力を除けば元の長さに戻りますが、このときの加える力とスプリングがたわむ(伸び縮みする)量の関係を『バネ定数/バネレート』といいます。
『バネ定数』はスプリングを1mmをたわませるのにどれくらいの力(重量)が必要なのかを表した数値で、現在はN(ニュートン)の単位でも表されるようになりましたが、クルマやオートバイの世界ではkgfの単位の方が馴染んでいますしわかりやすいよね。(笑)

それから『バネ定数』は“一定のもの”と“一定でないもの”があります。
“一定のもの”は一定の太さの線材を同じピッチで巻いた「コイルスプリング」や、厚みや巾が一定の「板バネ」等です。『バネ定数』が一定ということは加えられる加重とスプリングの変形量が正比例しますから、10kgかけて1mm縮むスプリングの場合は20kgかけると2mm縮むことになります。
“一定でないもの”とはスプリングのたわみ量によって『バネ定数』が変わるもののことで、不等ピッチで巻いた「コイルスプリング」や、テーパーや樽型に巻いた「コイルスプリング」、厚みや巾に変化のある「板バネ」や「気体バネ」がそれに当たります。これらのスプリングは加重を加えるに従ってプログレッシブ(2次曲線的)に反発量が変化する特性があることから、純正のサスペンションスプリングに多く使われています。

●第2の特性は、エネルギーを蓄え、また放出することです。
たとえば「ゼンマイ」の場合は巻き上げることで反発力としてエネルギーを蓄え、それを開放することで動力に変えています。クルマのサスペンションに使用されるスプリングもこの原理によるもので、路面からのエネルギーがドライバーに伝わるのを緩和しています。

●第3の特性は、『固有振動』を持つことです。
「コイルスプリング」を例にすると、時間的に微細に見ると一方から与えられた(入力された)エネルギーは一方通行ではなく巻かれたコイルを順々に他の一方へ伝わっていき、端に達するとエネルギーは反射して入力側に戻ってきます。この行って戻るサイクルを『固有振動』といいます。
ここでスプリングに対するエネルギーリ入力サイクルが『固有振動』と同じになるとスプリング自体が大きく振動し、スプリング本来の機能を果たさなくなってしまいます。この現象を“サージング”といい、エンジンのバルブスプリングなどに見られることがあります。

この固有振動数は計算式によって導き出すことができますから、バルブスプリングではそれを考慮して使われています。具体的には、不等ピッチでコイルを巻くことで固有振動数を調整したり、固有振動数が異なるスプリングを二重に組み合わせて使ったりしています。
一般的に金属製のスプリングでは、“固有振動数の1/3以下のサイクルで使用すること”が理想とされています。


クルマのサスペンションにとってスプリングは、とても重要な役割を担っています。
車重を支え、路面からの衝撃をやわらげ、ダンパーと相まって走行中の車体の姿勢変化を制御しているわけですから、サスペンションにおけるメインパーツに当たります。旋回性能の良し悪しもサスペンションのセッティング次第となるわけですから、スプリングの役割は大きいといえますね。

またエンジンの中で吸排気バルブに組み付けられているスプリングは、カムプロフィールどおりにバルブの開閉を行っています。
かつて超有名なチューナーが“カムは頭脳であり、バルブスプリングはその頭脳の指令を実行する筋肉である”という言葉を残されたそうですが、これほどバルブスプリングの役割を端的に表した言葉はありませんね。(^_^)


それから“スプリングのへたり”なんていう言葉を耳にすることがありますが、スプリングの『バネ定数』は変化しません(スプリングの能力は劣化しません)から「コイルスプリング」でいうと“自由長の変化”を表しているものと考えられます。
サスペンションであればスプリングの自由長が変化しても車高調整式ならば合わせることができますから、ずっと使用できることになります。しかしながらバルブスプリングのように長さが決まっている部分では自由長が変わるとプリロードが変わってしまいますから、求めている性能が変わってしまうことも考えられるので問題ですね。

クルマとスプリングの関係はとっても濃いわけなんですが、スプリングのおかげで助かっているところが多くあります。
これからもスプリングに感謝するとともに、もっとスプリングを活かしていきたいものです。
鋳鉄の隠れた魅力と優れた性能
鋳鉄で作られている部品として思い出すのは「ブレーキローター」や「エンジンブロック(アルミ製のエンジンブロックではシリンダスリーブ)」だと思いますが、どんな性質を持っている素材なのか知っているでしょうか?!

鋳鉄の性質としてまず思い浮かべるのは“硬い”ことと“脆い(もろい)”ということだと思いますが、この性質は“ある鋳鉄”の特徴的な性質になりますが全ての鋳鉄に共通することではありません。
鋳鉄もまた他の金属と同じように合金として性能が高められていますから、鋳鉄だからといって必ずしも硬くて脆いわけではないんですよ。(実は鋳鉄そのものが合金なんですが・・・)

クルマの部品として関係の深い鋳鉄としては「片状黒鉛鋳鉄」と「球状黒鉛鋳鉄」の2種類があげられますが、それぞれの鋳鉄の特徴を次のようにまとめてみました。


●「片状黒鉛鋳鉄」は“普通鋳鉄”とも呼ばれていますが、JISでは“ねずみ鋳鉄(破断面がねずみ色をしていることからそう呼ばれています)”と呼ばれている素材で、略称として「FC」と呼ばれ“フェライト・キャスティング”の略になります。
(フェライトとは鉄に他の元素が固溶したもので、鋳鉄の素地の1つです)

鋳鉄の元となる鉄鉱石を高温で溶かして銑鉄にするときに、コークス(ほぼ炭素の固まり)と一緒に熱することから銑鉄には多くの炭素が含まれています。この銑鉄を素材とする鋳鉄は、鉄と炭素の化合物がグラファイト(黒鉛)という形で多く存在するのですが、このグラファイトの形状が片状になっているのが「片状黒鉛鋳鉄/FC」です。
このグラファイトはいわゆる不純物であり組織の中に網目状に存在することから、外部応力が加わるとこの網目に沿って割れたり欠けたりするといった脆さが現れます。

しかしこの網目状に広がったグラファイトは“共振を抑える”働き(減衰能)をしますから、工作機械の本体はすべてこの「FC」で作られているといっても過言ではないのだそうです。
それからグラファイトは潤滑剤の役割をするために耐磨耗性に優れており、測定機器としてものを滑らせる必要のある定盤やVブロックにも「FC」は使用されています。この性質を活かしているのがシリンダブロックやシリンダスリーブというわけですね。
また熱伝導性が良いので摩擦熱を逃がしやすいことや、弾性係数があまり高くないなどで耐摩耗性の良い素材であるということも大きな特徴です。それらを活かして、軸受けや歯車などの耐磨耗部品としても多く使われています。


●「球状黒鉛鋳鉄」は“ダグタイル鋳鉄”と呼ばれている素材で、このダグタイルという言葉の意味は“延びる・延性がある”ということで、この頭文字のDをとって「FCD」とも呼ばれています。
その名の通り「FC」に比べて引っ張り強度があるため、より薄くする製品を作ることが可能な点が大きな特徴ですが、「片状黒鉛鋳鉄/FC」をベースとした合金ですね。

「FC」では組織中に片状に分布しているグラファイトを球状にしたのが「球状黒鉛鋳鉄/FCD」で、球状化するためにマグネシウムを添加しています。グラファイトが球状化することにより「FC」では網目状のグラファイトで分断されていた素地が結びついて、その素地であるフェライトやパーライトの性質が強く現れて、鋼材のようにしなやかに折れにくい性質に変わっているのです。
「FCD」は「FC」よりも硬くて引っ張り強さがあるために、より薄い製品を作ることが出来ますから、クルマの足回りの部品にも使われています。

「FCD」は鋳放しのままでも鋼材に近い強靭性を持っていることが大きな特徴ですが、その半面で「FC」の長所である減衰能は著しく低下します。こうしたことから2種類の鋳鉄はそれぞれの特性を活かして使われており、鋳鉄の主流でもあります。


クルマでは鋳鉄で作られたパーツはそれほど多くありませんが、鋳鉄で作られた工作機械や工具・測定機器は幅広く使われていますから、そう考えると鋳鉄は私たちスポーツカーを愛するものにとっても“なくてはならない素材”の1つだと思います。
ブレーキパッドの要/摩擦材
ブレーキは“運動エネルギーを摩擦で熱に変える”ことでクルマを減速し、止めることができます。この熱の発生源が“ブレーキパッド”で、このような摩擦力を生み出す素材を“摩擦材”と呼びます。
ずっと以前はアスベスト(石綿)が中心でしたが、人体への悪影響がわかってからは使われなくなりました。現在のブレーキ用の摩擦材は、ノンアスベスト系・セミメタリック系・カーボンメタリック系・メタリック系に分類できます。

ノンアスベスト系のブレーキパッドは、アスベストの代わりにケプラーなどのアラミド繊維を摩擦材として使用したもので、ストリートタイプのスポーツパッドに使用される摩擦材としてはもっとも一般的なものです。
ローター適正温度としては600℃程度が限界のようですから、ハードなスポーツドライビングには不向きでしょうか。

セミメタリック系のブレーキパッドは、スチール繊維を基材として使用したもので、特に耐久性に優れることから純正品から使用され始めました。
ローター適正温度が高く設定できますから重量級のクルマに多く使用されることがあり、スポーツドライビングを主とした使い方をされる場合にはセミメタリック系以上のブレーキパッドが好ましいと思いますね。

カーボンメタリック系のブレーキパッドは、スチール繊維とカーボン繊維を摩擦材として使用する“レーシングタイプ”で、優れた制動能力とともにコントロール性に優れているのが大きな特徴です。その反面でローターへの攻撃性が大きいので、ダストが多く、ローターのダメージが大きくなるのが欠点でしょうか。
ローター適正温度をより高く設定した製品が多いので、スポーツドライビング専用のブレーキパッドとも言えます。

メタリック系のブレーキパッドはさらに高い性能を追求した製品で、摩擦材には焼結合金を使用します。これは金属を粉末にして加圧成型(型通りに固める)した後で、融点以下の温度で熱処理(溶けない程度までの高温にする)すると、粉末の粒子間に結合力が生まれて固まるという焼結方法で作られています。
その制動能力は比類なきレベルであることは間違いありませんが、大変高価なものになります。


ストリートで使用するブレーキパッドにおいては、効き(制動性やコントロール性など)はもちろん重要になるわけですが目的や乗り方・走り方にあった素材や製品を選んで使って欲しいですね。
スポーツドライビングを楽しむ方に注意して欲しいのはローター適正温度で、ローターの温度が上がりすぎるとブレーキパッドが変質(炭化)して性能を大きく損なうこともありますから、よく考えて選択していただきたいと思います。
※「アラミド繊維」というのは、引っ張り強度と弾力性に優れる“スーパー繊維素材”で、密度は鋼の5分の1なのですが引っ張り強度はガラスや鋼よりも大きいというものです。
一般的には「CFRP(カーボンファイバー・リインフォースド・プラスチック=カーボン繊維補強樹脂)」の補強素材として使われることが多いようです。
金属の代わりをする樹脂
工業的な分野で主として金属の代わりに使われる樹脂=プラスチック類を総称して「エンジニアリングプラスチック(略してエンプラ)」と言います。
汎用のプラスチックと比べて強度や弾性や耐熱性などに優れていて、高レベルの耐衝撃性・耐摩擦/磨耗性・耐クリープ性・難燃性・電気特性・耐久性・耐薬品性・良好な成型加工性などの様々に高い性能を持っています。

防弾ガラスとして使用される『透明な金属』とも呼ばれる“ポリカーボーネート樹脂”もこのひとつで、耐衝撃性や透明性が優れているだけでなく、成形性・耐薬品性も良好で耐熱性も120℃以上ありますからヘルメットのシールドにも多用されています。

うちの製品では「スポーツシフトノブR」や「ECUスペーサー」の材料として使っているのが“ポリアセタール樹脂”で、聞きなれた名前でいうと“ジュラコン”です。これもエンジニアリングプラスチックのひとつなんです。
このポリアセタール樹脂の特徴は、強靭で弾性度が高く、摩擦に強いばかりでなく摩擦抵抗が少ないという点で、用途に合わせた素材の選択はもちろん必要ですが、ネジを切ったりギア(歯車)として使用することも可能な素材です。なので、かなり身近なところでも使われているんですよ。
航空宇宙産業生まれの超素材チタン
カスタマイズやチューニングにおいて、注目の金属が“チタン”です。比重は鋼の3分の2程度なのに、強度は材質によっては鋼並みのものもありますから驚きです。
ずっと以前からレースの世界ではお馴染みの素材で、その軽さと強度に目を付けて性能だけを追求した使いかたは、ある意味で採算を度外視した羨ましいものです。現在では一般的なチューニングパーツ(マフラーなど)にも頻繁に使用されるようになっており、比較的手の届く価格になったよう?!にも感じますよね。

チタンの特徴は“他のどんな金属よりも比強度(重量に対しての強度)が大きいこと”です。言い換えれば、同じ強度のものを作るならば軽くできるし、同じ重さのものならばより強度を大きくすることができるのです。
チューニングやカスタマイズ用のパーツとして使われるチタンには2種類あって、ひとつは「純チタン」であり、もうひとつは「ロクヨンチタン(チタン合金:Ti6Al4V)」です。

「純チタン」には3種類あり、チタンの強度に影響する鉄の含有量が少ない方から“1種・2種・3種”と分かれています。鉄の含有量が少ない1種が最も柔らかく、含有量が多い3種が最も硬いんです。
マフラーなどに使用されるのはこの「純チタン(たいていは2種を使うらしい)」で、軽いだけでなくステンレス以上に耐食性に優れていますから、いつまでもその美しさを感じながら使用できるが大きな魅力ですね。

「ロクヨンチタン」であるチタン合金Ti6Al4Vは、この呼び名のとおりの添加元素が使われており、6Al=アルミが6%+4V=バナジウムが4%を添加されており、チタン合金の中では最も有名なものです。
この合金の特徴は“熱処理”をかけることで高張力鋼(クロモリ鋼)にも引けをとらない強度を実現しながら、重量的にはそれよりも40%ほど軽くできることです。これでは軽くて強いといわれている「クロモリ鋼」の立場がなくなっちゃいますよね。
また耐熱性にも優れているためエンジンのバルブやリテーナーなどにも使うことができ、これによって慣性重量を大きく軽減できるので“より高性能なエンジンチューニング”が可能になり、レースカーでは当たり前のように使用されています。それから“チタンボルト”もこの素材を使用しています。


こうして書くとチタンはすべてがパーフェクトな金属のようにも思えますが、製品を作る=加工性についてはその特性を良く理解しておかなければなりません。特に“他の金属との焼きつきやすさ”という短所がありますから、チタンの優れた能力を活かすためには技術や知識ばかりではなく工夫も必要なようです。
ちなみに超軽量ホイールナットには“ロクヨンチタン”を使用したものがありますが、実際にクルマに装着使用する場合にはそれなりに注意が必要になります(熱膨張率が大きいことを決して忘れてはいけません)から、くれぐれもご注意いただきたいと思います。
丈夫で軽いクロモリ鋼の正体とはとは?
炭素鋼と呼ばれる素材はどこでも手に入れることができ、その用途も広い便利な鋼材です。
一般的には「S-C材」と呼ばれ、SとCとの間に数字が入ることで、その数字が含有する炭素の量を表します
炭素鋼はこの炭素の含有量により性質が変化し、炭素含有量が多くなるほど鉄は強くなるわけですが、その反面伸びにくくなるとともに耐衝撃性も弱くなり(脆くなり)、溶接性も低下してしまいます。

この炭素含有量の多い炭素鋼の引っ張り強さ(伸びに対する強さ)を高めるために様々な添加元素を加えたものが“合金鋼”と呼ばれる素材で、俗に「高張力鋼(ハイテンションスチール)」と呼ばれています。
「高張力鋼」という名前は自動車のボディにも使われていますから馴染みがあると思いますが、特に強度の必要なシャシフレームなどに多く使われています。

その合金鋼のひとつが“真の高張力鋼”とも言われる「SCM材」で、通称“クロモリ”なんて呼ばれています。正しくいうと「クロムモリブデン鋼」で、その名前のとおり添加元素にクロムとモリブデンと炭素を含んだ合金鋼です。

クロモリ鋼は特に引っ張り強度に優れ、レース等においては丈夫で軽量なので補強材として補助フレームパイプなどに使用されることがよく知られています。これは、同じ形状であっても強度があることから薄肉化が可能になり、軽くて剛性の高いものができるからなのです。
人気のチューニングパーツではロールケージなどに使われていますが、本来ボディ補強パーツに使用する素材としては「ステンレス」よりも「クロムモリブデン鋼」の方が適していることは間違いありません。

「クロムモリブデン鋼」の短所としては、本来は溶接しない方が無難と言われている高炭素鋼の進化型であるために通常の鉄材のようには溶接できない(強度を落とさずに溶接するには注意が必要)と言われていますから、それを忘れずに覚えておかなければなりませんね。


ちなみにうちの製品のボディ補強パーツ=剛性アップパーツに「ステンレス/SUS304材」を使用しているのは、製品に塗装を施さなくても良いこと(コストを抑えられること)と、いつまでもピカピカの状態で使っていただけることを優先しているんですよ。
錆びないスーパー鋼?!ステンレス
パーツ工房で製作するオリジナルパーツに主として使用している素材が「ステンレス」で、その中でも特に有名な素材が“SUS304”と呼ばれるものです。
私の大好きな素材でもありますが、スポーツカー用のパーツ製作には欠かせない素材だと考えています。

「ステンレス」をもう少し正しく言うと「ステンレス鋼」となり、基本的には鋼にクロムを添加することで耐食性を向上させた“鉄の合金”です。
「ステンレス」の名前の由来は“ステイン(汚れ)+レス(ない)”からできた言葉で、その名のとおり“汚れにくい=錆びにくい”という特徴を表しているんです。私たちの生活の中ではかなり多く使われている素材です。

「ステンレス」は大きく3種類に分けられ、13クロムステンレス鋼・18クロムステンレス鋼・18-8ステンレス鋼となります。頭の数字はクロムの含有率%を表しており、18-8ステンレス鋼の場合は18%のクロムと8%のニッケルを加えている合金なんです。
強度的には13クロムステンレス鋼→18クロムステンレス鋼→18-8クロムステンレス鋼の順になり、耐食性としてはその逆になります。この中で最も馴染み深い素材が“18-8ステンレス鋼”で食器などの日常品等に多く使われており、SUS304材はこれに当たります。

SUS304材の特徴は、比較的柔らかく粘りがあるので加工しやすく、鉄であるのに非磁性(磁石にひっつかない)であるということと、何よりもステンレスの中でも最も耐食性に優れており、耐熱性や溶接性にも優れていることです。とても錆びにくく、表面の美しさがずっと続くというのは嬉しいものですよね。
このような点から考えると、エキゾーストパイプやマフラーに使用される理由がよくわかります。

オートバイのブレーキローターに使用されているのも「ステンレス」なんですが、クルマのブレーキローターとは異なり薄くて見栄えが良いことや強度や耐候性も要求されますから、強度面から13クロムステンレス系の特殊素材(耐摩耗性に優れ耐食性も向上している専用のステンレス材)を使用しています。
クルマに乗っているものからするとブレーキローターが錆びにくいということは羨ましいことですが、そのタッチやコントロール性についてはステンレス製よりも鋳鉄製の方が優れており(鋳鉄製が優れている点は他にもあります)、性能を優先させた“2ピースタイプのブレーキローター”ではブレーキパッドが接触する部分には鋳鉄を使っているんですよ。


ちなみにカスタマイズやチューニングにおいての注目素材であるチタンはステンレス以上に耐食性に優れ、錆びない金属と言っても間違いないほどです。
さらに比重が鋼の約6割程度なのに、強度は材質によっては鋼並みのものまであるのですから“チタン恐るべし”と言ったところですが、何よりもとても高価な金属ですから私たちには憧れの素材ですね。
アルミニウムは軽いだけがとりえじゃない!!
軽量で耐食性に優れているアルミニウムは、カスタマイズには欠かせない素材です。
しかし、アルミニウムが軽くて加工しやすいだけの金属だと思っていたら大間違い。他の金属元素を添加することでアルミ合金(すべてのアルミ材が実はそうなのです)として使用され、強度や性質は飛躍的に向上するのです。
鋼に匹敵する強度を持つ「超々ジュラルミン」もアルミ合金の1種なんです。

アルミ合金には様々な種類があり、添加される金属によってその性質が大きく異なりますから、チューニングパーツとして使用する際には用途に合った材料をきちんと選ばなければなりません。
添加される金属元素はマグネシウムやマンガン・クロム・シリコン(ケイ素)・銅・ニッケル等で、種類によってそれぞれに組成が異なります。たとえば、よく知られている「ジュラルミン」のA2017という素材は銅が4%・マグネシウムが0.5%・マンガンが0.5%で残りが母材のアルミニウムという具合です。

また種類によっては耐食性が悪くなったり(これを補うためにアルマイト処理や塗装をする)、加工が難しくなったりすることもありますが、軽量であることは変わりません。やはり、軽いことが最大のポイントですね。
それから「ジュラルミン」類は溶接には向いていませんので、削り出し品として使われることが多いです。

アルミ合金の耐食性を補ったり見栄えを良くする加工として知られているのが「アルマイト処理」で、表面を酸化処理(早い話が錆びさせること)することで強靭な皮膜を形成させるとともに、その処理反応によって色が与えられて美観的にも向上します。


ちなみに最軽量で知られるマグネシウムは実用金属中最も比重が小さく、次に軽いアルミの3分の1、鋼の4分の1で、比強度が高く寸法安定性や振動吸収性に優れています。
有名なのはホイールで、特に鍛造品は常識を超えた軽さを実現しています。しかしながら、欠点として取り扱いが難しく、特に耐食性に問題(湿度のある大気に触れると腐食してしまう)があり、きっちり塗装して防食してから使う必要があります。
※素材を知ることで、チューニングやカスタマイズの楽しさが増すことと思いますよ。